ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)は、ライフサイエンス研究の基礎・基盤となるバイオリソース(動物・植物等)について収集・保存・提供を行うとともに、バイオリソースの質の向上を目指し、戦略的な整備を行うため、2002年度より文部科学省が開始したプロジェクトです。

NBRP「ニホンザル」もプロジェクトの開始当初から採択され、人類の福祉の向上に貢献する医学・生命科学研究に必要なニホンザルの飼育・繁殖・提供を行ってきました。2016年度までは自然科学研究機構生理学研究所を代表機関として実施されてきました。当初から京都大学ヒト行動進化研究センター(当時は霊長類研究所)も分担機関(最初は協力機関)として参画しており、NBRP第4期がスタートした2017年度から、すでに繁殖事業や提供事業は京都大学が中心に実施するようになってきていたこともあり、代表機関を京都大学に、分担機関を自然科学研究機構にと、役割を変えて推進することとなりました。現在は第5期が進行中です。

本プロジェクトは、Bウィルス・サルレトロウイルス・赤痢菌・サルモネラ菌・結核菌などの検査で陽性反応が出ないことを確認した、人獣共通感染症等に関して安全で安心できる研究用ニホンザルを広く生命科学研究に役立てるために安定して提供することを目的としています。それだけでなく、研究用ニホンザルに適切な飼育環境や実験手技などを普及すること、研究用に飼育繁殖したニホンザルを提供することによって野生のニホンザルの実験使用をなくすこと、広く一般の方に研究活動を理解してもらうことも大きな目的です。

目的を達成するために次のような活動を行なってきました。適正な動物実験の普及のため独自のガイドラインを作成し、ガイドラインや関連する法律等に基づいて各申請を厳格に審査してきました。審査を徹底することで、各研究機関の機関内規程の改正、3Rを遵守した計画の立案、適正ケージサイズの普及などに大きく貢献しています。サルの扱いや法律に関する講習会を毎年複数回行い、受講者にはライセンスを発行しています。ライセンス取得者だけが提供されたニホンザルを扱えます。ニホンザルの取り扱い実習も行っています。安全安心のためにさまざまな検査系を立ち上げ、検査を実施してきました。こうした活動を通じてニホンザルを用いた研究の質の向上と飼育管理の改善にも大きく貢献しています。

本事業の成果は、脳研究を中心として、これまでにNatureやScienceなどの一流雑誌を含む英文学術論文や和文学術論文として出版されました。日本発の脳神経科学、とくに高次脳機能に関する研究成果の多くは、カニクイザルでは学習困難な高度で複雑な認知課題を訓練することにより初めて得られるもので、ニホンザルならではの貢献と言えます。また,治療法開発を目指した研究成果が医療機器として認可され、心肺停止患者の生存率の向上に貢献した例もあります。研究成果についてはNBRP 公開論文サイトなどでも公開されていますので、是非参照していただきたい。

今後も広く生命科学研究で「ニホンザルでなければならない研究成果」が世に出て行くことを期待するとともに、多くの方に本プロジェクトの意義をご理解いただけるように頑張っていきます。

2023年4月
ナショナルバイオリソースプロジェクト「ニホンザル」
代表機関(京都大学)課題管理者 中村克樹
(ヒト行動進化研究センター センター長・教授)